―コンビニ―
女(えーっと……アクエリアス、胃薬、シュークリーム、ティラミス……)
女(あとるるぶも買っておこう! 今度の連休で旅行行きたいし!)
女「お願いします」
店員「ちょうどいただきます」
店員「レシートはご利用になられますか?」
女「いえ、結構です」
レシート「……待ちな」ピラッ
元スレ
店員「レシートはご利用ですか?」女「結構です」レシート「……待ちな」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1494244970/
レシート「悪いことはいわねえ。俺を持ち帰りな……」
女「なに、この声?」
店員「なんでしょうかね……?」
女(他に客はいないし……)キョロキョロ
女「分かった! あなたが腹話術してるんでしょ! からかわないでよ!」
店員「し、してませんよ!」
レシート「腹話術なんかじゃねえさ……俺は意志を持ったレシートなのさ」ピラリン
女「なんですって!?」
女「どうしてレシートがしゃべってるわけ!?」
レシート「どうして、はこっちのセリフだ」
レシート「どうして俺を持ち帰らない?」
女「だって、お財布に入れてもかさばるし……」
レシート「レシートってのはようするに領収書だ」
レシート「あんたと店がちゃんと取引しました、っつう証でもある」
レシート「それをないがしろにするってのは……よくないことだと俺は思うぜ!」
女「うぐっ……!」
レシート「それにレシートってのは紙が使われており……」
レシート「紙を粗末に扱うのは自然保護の観点からいっても……」クドクド…
女「あ~もう! 分かった! 分かったわよ!」
女「これ以上説教喰らいたくないし、持って帰ってあげる!」ピッ
レシート「へへ……毎度あり!」
店員「ありがとうございました~!」
レシート「じゃ、とっとと家に帰ろうぜ」
女「あいにく、私はこれから病院にお見舞いして……彼氏とデートなのよ」
レシート「ほう……レシートを見捨てるような女にも彼氏がいるとは!」
レシート「彼氏に告げ口しちゃおっかな~……あんたも見捨てられるかもって」
女「余計なことしたらやぶくからね!」
レシート「へいへい」
プルルルルル…
女「あら、会社から電話!」
女「はい……あ、はい! すぐメモを取ります!」
女「――ってあら! しまった! 手帳、会社に忘れてきちゃった!」
女「どうしよう~!」
レシート「お~い」ヒラヒラ
女「?」
レシート「ここに一枚の紙があるのを忘れてねえか?」
女「あっ、そうか! あんたにメモすれば……!」
女「ふぅ~、どうにかなったわ」
女「あんたがいなきゃ、暗記しなきゃいけないとこだったわ。どうもありがとう」
レシート「な? レシートってのも結構役に立つもんだろ?」
女「まぁね……」
女(――って、たまたまのくせに偉そうに!)
ホスト「そこのお姉さん、さっきからなにブツブツいってんの?」
女「な、なんですか?」
ホスト「まだ早いけどさ、ちょっとウチの店で飲んでかない? ドンペリとかでパァーッとさ」
女「結構です!」
ホスト「頼むよぉ~、今月全然売上なくってやべぇんだよぉ~!」ガシッ
女「は、はなして!」
女(とんだ悪徳ホストだわ! んもう、今日はさっきから次から次へとなんなのよ!)
レシート「やめときな」ピラッ
ホスト「!?」
女「レシート……!」
ホスト「なんだ今のやたら渋い声は……!?」
レシート「女も満足に口説けねえナマクラホストに……レシートの切れ味見せてやるぜ!」ヒラヒラ…
レシート「レシートカッター!」
ズババババババッ!
ホスト「……へ」バササッ…
ホスト「うぎゃぁぁぁっ! スーツが切れてパンツ一丁に!」ブヨン…
女(うわぁ……顔はわりとイケメンだけど体はだらしない……)
レシート「そんな体じゃ、夏にプール行くのも恥ずかしいだろ。心と体を鍛え直してこい!」
ホスト「おふぅぅぅ……」ブヨヨン…
ホスト「すみませんでしたぁ~!」タタタタタッ
女「あんた強いのね~」
レシート「俺に惚れるなよ。切り傷ができるぜ」ピラッ
女「さて、おかげで病院に行けるわ」
レシート「そういやお見舞いっていってたな」
レシート「会社の同僚でも入院してるのかい?」
女「ううん……知り合いの子供よ」
女「だけど、長い入院生活ですっかり気力をなくしててね……なんとか元気づけてあげたいんだけど……」
レシート「ふうん……」
―病院―
子供「……」
女「ね? すぐ退院できるから、ほら元気出して!」
子供「無理だよ……ぼくはこの病院で一生を終えるんだ……」
レシート(こりゃあかなりの重症だな……すっかり落ち込んでやがる)
レシート(ま、入院暮らしが長くなりゃこうなるのも無理はないが……)
レシート(だったら――)ピラッ
レシート「……」ヒソヒソ
女「! ……うん、なるほど!」
女「ねえ坊や、私が作った紙飛行機が、この部屋を自在に飛び回るなんてあると思う?」
子供「あるわけないじゃない。そんな夢物語みたいなこと」
女「じゃあもし……そんな夢物語みたいなことが起こったら……」
女「あなたも少しは勇気をもらえるんじゃない?」
子供「もし起こったら……ね。だけど無理だよ」
女「よーし、じゃあ紙飛行機折ってあげるわ」スッスッ…
レシート「も、もっと優しく折ってぇん!」ビクビクッ
女「気持ち悪い声あげないでよ!」
女「そらっ!」シュッ
レシート「いくぜえ!」ギュオオオオオオッ
子供「!!??」
レシート「きりもみ飛行!」ギュルルルルッ
レシート「宙返り!」グルンッ
レシート「8の字!」ギュンギュン
子供「すごいすごい! すごいや! この紙飛行機、まるで生きてるみたいだ!」
女(ちょっとやりすぎな気も……)
女「どうだった? 私の紙飛行機は?」
子供「お姉さん、どうもありがとう!」
子供「ぼく、おかげで勇気出たよ! がんばってこの病気治す!」
女「坊やが頑張れば、すぐ退院できるわよ」
レシート「ふっ……さすがの俺もちょいと疲れちまったぜ」ハァハァ…
女「レシート、どうもありがとう!」
女「あの子のあんな笑顔を見たのはじめてだわ!」
レシート「人々に笑顔を届けるのがレシートの使命だからな……」
女(そんなご大層な使命があるとは……)
女「とにかく、これで心おきなくデートに――」
刑事「もしもし、そこのお嬢さん」
女「なんですか?」
刑事「私、こういう者でしてねぇ」スッ
女「刑事さんがなんの用です?」
刑事「実は先ほど、この近くで銃撃事件がありましてねえ……犯人を捜しているのです」
女「はぁ……」
刑事「事件が起きた時刻、あなたのアリバイはありますか?」
女「いきなりアリバイなんていわれても……」
刑事「アリバイがないのであれば、逮捕するしかありませんねぇ」ニヤニヤ
女「え、なんで!?」
刑事「なぜなら、アリバイがないというのは、犯人である証明だからです」
女「そんな無茶な推理、眠ってない毛利小五郎だってやらないわよ!」
女「だいたい、こんないきなり逮捕だなんて――」
刑事「私の異名は“中世刑事(デカ)”……あなたはもう逃れられないのですよ」
刑事「さ、手錠をかけてあげましょう。逮捕します」
女「ちょ、ちょっと――」
レシート「……待ちな」ピラッ
刑事「何者ですか、あなたは?」
レシート「その女のレシートさ」
刑事「おやおや、しゃべるレシートとは面妖な」
レシート「俺がその女のアリバイを証明してやらぁ」
刑事「ほう……どうやって?」
レシート「簡単さ……俺を見ろ!」バン!
刑事「む! 事件のあった△時頃……ここから随分離れたコンビニで買い物をしている……!」
レシート「だろ? つまりこの女は犯人じゃない!」
刑事「ぐぬぬ……どうやらそのようですねぇ……この私としたことが……!」
刑事「このレシートのおかげで、あなたが犯人でないことは分かりました」
刑事「しかし、この近くを銃撃犯がうろついているのは確かなのです」
刑事「くれぐれも気をつけて下さい」
女「ふぅ~……とんでもない刑事だったわ」
女「またもやあんたに助けられちゃったわね」
レシート「俺を持ってりゃ、アリバイ証明だってできるのさ!」ビシッ
レシート「ところで、デートの時間は大丈夫かい?」
女「あっ、そうだわ……遅れちゃう!」
女「走らないと!」タタタッ
レシート「おいおい、ちゃんと俺を持ってってくれよ」スポッ
ドンッ!
女「あ、ごめんなさい!」
犯人「ぐへへへ……」
女(な、なにこいつ……!? 明らかに目つきがおかしいけど……!)
犯人「次は女を撃つってのもいいかぁ~」チャッ
女「!?」
女(まさか、こいつ――さっきの刑事さんがいってた銃撃犯人!? 私、今日運悪すぎじゃない!?)
犯人「一発で胸を撃ち抜いてやるぜぇ~」
女「やっ、やめ――」
犯人「ヒャハァッ!」
パンッ!
女「いやぁぁぁぁぁっ!」
犯人「ぐへへへ……」
女「……あら? ピストルで撃たれたはずなのに……」
犯人「てめえ、なぜ生きてる!?」
女「レシートを胸ポケットに入れておいたおかげで助かったわ!」サッ
犯人「な、なにぃぃぃぃぃ!?」
レシート(いくら俺でも……銃弾を受け止めるのはかなりキツかったぜ……)ピラリンッ
レシート「さっきの贅肉ホストは服だけにしてやったが……今度は容赦しねえ!」ヒラヒラ…
レシート「レシートスラァーッシュッ!」
ズバババババッ!
犯人「ぐはああああああああっ!!!」
刑事「お嬢さん、レシートさん、あなた方のおかげで犯人を逮捕できました」
女「まあ、私はなにもしてないけどね」
レシート「俺もちょいと犯人を切り刻んだだけさ」
刑事「あなた方には借りができましたねぇ……」
刑事「私も“中世刑事”の異名を返上できるよう、これからは努力しますよ」
女「そうしてもらえると、一市民としてもありがたいわ」
刑事「では、失礼します」
ファンファンファン…
―駅前―
女「お待たせ~!」
男「……」
女「ごめんね、待った?」
男「いや……」
女「どうしたの?」
男「実は今日はデートじゃなく……君に話をするために呼んだんだ」
女(え、なに!? まさか……プロポーズ!?)
男「僕たち、別れよう」
女「は!?」
女「ちょっと待ってよ! なんで、いきなり……!?」
女「もしかして、他に好きな人が――」
男「いや、そうじゃない。君は女性として本当に素晴らしい人だ」
女「だったらどうして……」
男「だが……素晴らしすぎるんだ。僕とはあまりにも格差がありすぎる……」
男「僕には自信がないんだ……これからもずっと君に愛され続ける自信が」
男「いや……そもそも今愛されてる自信すらない!」
男「だから……別れよう」
女「そ、そんな……! 私はあなたのこと……!」
レシート「待ちやがれッ!!!」
レシート「おい、ダメ男」
男「レシートがしゃべった!?」
レシート「レシートだってたまにゃしゃべりたい時くらいあるんだぜ。いや、それより」
レシート「今……お前はこの女が自分を愛してないっていったな?」
男「ああ……彼女のような才女が僕を愛してるとは思えない」
レシート「だが、この女がお前を愛してる証拠なら、ある!」
男「なんだって!?」
レシート「俺をよぉく見てみるんだな……」
アクエリアス
胃薬
シュークリーム
ティラミス
るるぶ
男「こ、これは……ッ!」
レシート「頭文字を読むと、≪アイシテル≫……この女がお前を愛しすぎたゆえの奇跡だ!」
レシート「お前はこれを見てもまだ疑うのか!」
レシート「レシートに印字されるほどの……彼女の……愛を……ッ!」
男「うっ、うわあああああああああああ!!!」
男「すまなかった……」
男「僕は自分への自信のなさを君に転化して……ひどいことを……」
女「ううん、いいのよ……」
男「本音をいおう」
男「僕だって君を愛してる! これからもずっと付き合って下さい!」
女「……はいっ!」
女(よかった、この人と別れずに済んだ……。気弱だけど本当にいい人だから……)
女(これも……レシートのおかげだわ)
女「レシート……本当にありが――」
女「!?」
レシート「……」シュゥゥゥ…
女「レシート!?」
レシート「ちと力を使いすぎた……というより役目は果たした……」シュゥゥゥ…
レシート「俺はここまでだぜ……」シュゥゥゥ…
女「そんなっ! ちょっと待ってよ! もっとお礼をいいたいのに!」
レシート「いや……礼なんかいらねえさ……俺はもう満足してる……」シュゥゥゥ…
レシート「おい、ダメ男……またこの女悲しませたら……承知、しねえぜ……」シュゥゥゥ…
男「は、はいっ!」
レシート「じゃあな……ほんの数時間だが……楽しかっ……」ヒラッ
女「レシートォォォォォ!!!!!」
――
――――
十年後――
少女「ねえねえ、ママー」
女「なあに?」
少女「なんでこのレシート、額縁に飾ってあるの?」
女「それはね……このレシートはパパとママの愛のキューピッドだからよ」
~おわり~