課長「今日から配属になった新人君だ」
新人「よろしくお願いしやす!」
先輩「よろしく」
課長「君は仕事もできるし、面倒見もいいから、彼の教育係を頼むよ」
先輩「分かりま……」
先輩「!?」
新人「どうしやした?」
先輩(袖から入れ墨が見えてるぅ~!)
元スレ
先輩「新入社員がどう見ても暴力団の跡取りなんだが……」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1600506908/
先輩「えぇと……新人君」
新人「へい!」
先輩「いきなりで申し訳ないんだけど、ご実家はなにを……?」
新人「あまり大きな声で話せる商売じゃございやせんが、“組”を少々」
先輩「組……!?」
新人「どうしやした? 汗がハンパなく出てますぜ」
先輩「いや、今日は暑いからね。アハハハ……」ダラダラダラ
先輩「じゃあ、さっそく出かける。君にも同行してもらうよ」
新人「カチコミですかい!?」
先輩「カチコ……いや、仕事だよ仕事」
新人「了解ッス!」
新人「なんか道具(エモノ)は持っていきやすか!?」
先輩「(エモノて)いや、僕はだいたい手ぶらだね。なにか持っていっても構わないけど」
新人「そッスか」ゴソ…
先輩「……」チラッ
先輩(懐にピストルあるぅ~!)
――
先輩「今日のところは、こんなものかな」
新人「いやー、先輩のお仕事ぶり、拝見させてもらいやした! すごかったッス! マジ尊敬ッス!」
先輩「いや、あれぐらいどうってことないよ」
先輩(さて、先輩として……初日に酒ぐらいご馳走した方がいいよな? 本当はあまり関わりたくないけど……)
先輩「えぇと、よかったらこの後飲みに行かない?」
新人「へい! 喜んでお供させてもらいやす!」
先輩「こんな居酒屋で悪いけど……」
新人「いえ、とんでもないッス!」
新人「ところで先輩……」
先輩「?」
新人「俺と……兄弟盃交わしてもらえねェですか」
先輩「さ、盃!?」
新人「お願いしやす!」
先輩(嫌だよぉ、こんなおっかないのと兄弟分になりたくないよぉ。僕はカタギだし……)
先輩「いきなり兄弟ってのもなんだし……先輩後輩の盃ってのはどう?」
新人「全然かまわねッス!」
先輩「じゃ、じゃあ……これからも先輩後輩として仲良くやっていこう」
新人「へい!」
先輩「……」グイッ
新人「……」グイッ
新人「改めてお願いしやす! 先輩!」
先輩「へ、へい……(うつっちゃった)」
――
先輩「えぇと……今日は君にも仕事を手伝ってもらうよ」
新人「マジッスか! あざっす! 気合入れやす!」
先輩「じゃあ、僕に同行してもらうからね」
新人「へい!」
課長(なかなかよくやってるじゃないか)
新人「す、すいやせん……足引っぱっちまって……!」
先輩「いや、いいんだよ。最初のうちはしょうがないさ」
新人「この上は、この上はァ、指を詰めて……!」ジャキン
先輩「ひっ!」
先輩「詰めんでいい! 詰めんでいい!」ガシッ
新人「先輩……なんって優しい……! あんた聖人だァ……! 仏様だァ……!」
先輩(これが普通なんだよ!)
先輩「今日は13時から、得意先と打ち合わせがある」
新人「へい!」
先輩「僕に同行して、しっかり話を聞いておいてね」
新人「バッチメモりやす!」
先輩「それと、社会人の基本は時間を守ることだ。絶対に遅刻しちゃいけないよ」
新人「分かりやした!」
先輩「どうも御無沙汰を」
得意先「こちらこそ」
得意先「いつも守って頂いてありがとうございます」
先輩「いえいえ、とんでもないです。仕事ですし、当然のことをしているだけです」
ペチャクチャ… ペチャクチャ…
新人「……」
新人(先輩……かっけえなァ……!)
新人「完璧な打ち合わせでしたね!」
先輩「まあね。上手くいってよかった」
プルルル…
先輩「はい、株式会社カイタイ……あ、はい、分かりました。すぐ向かいます」
先輩「仕事が入った。一緒に行こう」
新人「忙しいッスね」
先輩「忙しい時はとことん忙しい、社会人ってのはそういうものさ」
新人「へいっ!」
新人「うへぇ~、立派なビルッスねぇ……」
先輩「今をときめくIT企業なんかの事務所がいっぱい入ってるからね」
先輩「もっとも……僕らの仕事相手はその隣だけど」
新人「そッスね」
先輩「じゃあ今日もはりきって行こう!」
新人「一発かましてやりやしょう!」
先輩「いや……二発かな」
――
新人「あの……先輩」
先輩「なんだい?」
新人「ウチの父親(オヤジ)が……ぜひ先輩に会いたいといってて……」
新人「一度、実家に来てくれませんかね?」
先輩「実家……!」
先輩(暴力団の本拠地なんか行きたくねえよ……怖いよ……)
新人「お願いしやす! どうかこの通りでござんす!」
先輩「……」
先輩(しかし……新人君もよくやってくれてるし……無下にするのも……)
先輩「分かった……行こう!」
新人「あざっす!」
新人「さっそく迎えを来させるんで!」
先輩「いや、そんなことしないで――」
ブロロロロロ…
新人「来たッス!」
先輩(黒塗りの高級車来たァァァ!)
黒服「若、同僚のお方。さ、お車へ」
先輩(“お車”が“送る魔”に聞こえるよ……。僕、帰ってこれるかな……)
新人「いいか、この方に粗相したら、指じゃ済まさねえからな! 腕ごといくぞ!」
黒服「へい」
先輩(余計なこというんじゃないよ!)
ブロロロロ…
先輩(神様~、助けて~!)
ブロロロロ… キキッ
黒服「到着しやした」
新人「ご苦労、オヤジを呼んできてくれ」
黒服「分かりやした」
先輩「大きなお屋敷だね……」
新人「大したことねッスよ」
先輩(こんなのどう見ても暴力団組長のお屋敷じゃん! 本当にありがとうございました)
黒服「あの……」
新人「なんだ?」
黒服「組長(オヤジ)がぜひ、先輩さんとサシで話したいと……」
先輩(え!?)
新人「是非そうしてくだせえ! 俺みたいな半端モンがいるとかえって邪魔でしょうし!」
先輩(嫌だよ~! 組長とサシなんて嫌だよぉ~! 帰りたいよぉ~!)
組長「……」
先輩「……」ゴクッ
先輩(結局サシになってしまった……)
組長「あんたが……息子の先輩かい」
先輩「は、は、はい……」
組長「い~いツラ構えしてらっしゃる。きっと仕事もお出来になるだろう」
先輩「いや、そんなことは……」
先輩「……」ガタガタ
組長「おや、武者震いですかい?」
先輩(怖くて震えてるだけだよ!)
組長「あのバカ息子が、一般(カタギ)の仕事してェって言い出した時にゃ」
組長「なに考えてんだ、お前にゃ無理だ、と激昂(キレ)たもんですが……」
組長「あんたになら、息子を任せられる。どうか、息子を一人前に育ててやって下せえ」
先輩「……!」
先輩「分かりました……必ず息子さんを立派な社員にしてみせます!」
組長「ありがてえ……! ありがてえ……!」
先輩(思ったより怖い人じゃなくてよかった……)ホッ
新人「どうでした、オヤジとの面談は?」
先輩「いやー、おっかなくて、緊張したよ」
新人「おっかない? なんでです?」
先輩「暴力団の組長さんなんておっかないに決まってるじゃないか!」
プルルルルル…
先輩「あ、もしもし……はい、すぐ向かいます!」
先輩「仕事だ、現場に向かおう!」
新人「へい!」
怪獣「ギャオオオオオオオン!!!」ズシン…
先輩「体長100メートルってとこか……ま、三発ぐらいかな」
先輩「怪獣退治専門会社……僕たち、株式会社カイタイの腕の見せ所だ! 君は援護を頼むよ」
新人「へい! サポートしやす!」
新人「……って、怪獣を素手で殴り殺せる先輩が、なんで今更暴力団なんぞにビビるんスか?」
先輩「しょうがないだろ! 怖いもんは怖いんだよ!」
― 完 ―